アルシデ…それは全てが魔法使いによって作られた世界。
この世界は7つの階層に分かれている。
深い海の底にある、第1階層・深海の階。
爽やかな海が広がる、第2階層・浅瀬の階。
情報の発信地であり大都会、第3階層・陸地の階。
豊かな大自然と森、第4階層・森林の階。
灼熱の砂の大地、第5階層・砂漠の階。
広大な空に浮島が浮かぶ、第6階層・天空の階。
アルシデと他の世界とを繋ぐ場所、第7階層・時空の階。
今回のアタシの物語の舞台は、第4階層・森林の階。
周りを森に囲まれた陸の孤島で、アタシはとんでもない事件に巻き込まれるのだった。
+++++
季節は秋。
10月も半ばごろ。
アルシデの世界も、アタシの住んでる陸地の階も、平和だ。
そんな平和を崩してやろうと、アタシは雨の屋敷にやってきた。
今日の悪事は、もう決めてある。
ルディ
「ふふん! アイツらに届いた郵便物を全部開けてやる!」
アタシは雨の屋敷のポストを開けた。
ルディ
「ん?」
そこには1通だけ、手紙が入っていた。
手に取ると、手紙にしては良い紙を使っていることが分かる。
開けてみれば、便箋からはほのかに花の香りまでする。
ただの手紙じゃないぞ、コレ。
ルディ
「えー、なになに…」
+++++
【親愛なる雨の神・ハミル様】
お久しぶりね。
ご機嫌いかがかしら?
早速本題に入るけど
11月4日(土)に森林の階にある私の別荘でパーティーを開こうと思うの。
是非来てくださると嬉しいわ。
逃げないでね♡
【太陽の神・アンジェリカより】
+++++
ルディ
「太陽の神!? パーティー!? へぇ、雨の神って鈍臭そうなのに、太陽の神なんて華のあるヤツにパーティーに誘われたりするんだなー」
感心していると、背後から無慈悲で冷たい声が降ってきた。
ルース
「何してるんですか?」
ルディ
「おわあ!?」
驚いた拍子に、手紙が手から離れて宙を舞う。
ルースは宙を舞う手紙を、静かに手に取った。手紙の内容をサッと一読し、軽蔑と憐憫の目でアタシを見た。
ルース
「他人宛の手紙を開けて読むなんて、随分と悪趣味ですね」
ルディ
「る、ルースだって今読んだじゃん!」
ルース
「僕のは不可抗力ですよ」
ルースはアタシの首根っこを掴むと、屋敷に引きずり込もうとする。
ルディ
「ちょ!? 何すんだよ!!」
ルース
「ハミル様に手紙をお渡しするついでに、ルディが悪戯をした罰を決めてもらいましょう」
ルディ
「悪戯じゃなくて悪事!」
ルース
「どっちでもいいです。ほら、来てください」
ルディ
「いだだだだ!!」
ルースは思ったより強い力でアタシを屋敷の中へ引きずって行った。
+++++
雨の神の部屋。
雨の神・ハミルは、アタシの悪事をルースから聞き、太陽の神・アンジェリカからの手紙を読んで、迷ったように唸った。
ハミル
「逃げるな、か…」
ルース
「どうします?」
ハミル
「彼女のこの手の誘いには、いい思い出が無いからな…」
ルース
「まぁ、そうですよね」
ハミルとルースは溜息をついた。
2人にだけ通じている話題に混ざりたくて、アタシはルースに聞いた。
ルディ
「なぁ、お前らアンジェリカのパーティーには、前にも行ったことがあるのか?」
ルース
「えぇ。ただのパーティーかと思ったら、とんでもない目に遭ったことがありますよ」
ルディ
「なんだなんだ!? すっげー気になる!」
ハミルは溜息をついて言った。
ハミル
「パーティーと見せかけて…アンジェリカと結婚させられかけた」
ルディ
「ええー…あの人、結婚にがめついタイプなんだ…」
ルース
「いろいろあって、結局アンジェリカ様は自身の右腕であるアレクシアと付き合うことで落ち着いたんですよね」
ルディ
「へぇ〜、アンジェリカって女もイケるんだ」
ハミルは悩んだ末に、ルースに言った。
ハミル
「ルース。私の代わりに、パーティーに出席してくれないか?」
ルース
「えぇ。ハミル様を危険に晒すわけにはいきませんからね」
ルディ
「え?逃げるなって言われてんのに、いいの?」
ハミル
「この程度の脅迫は、彼女にとって親近感を持って接しているにすぎない」
親近感で脅迫してくるって、ヤバイ相手だな。なんて思っていると、ルースは言う。
ルース
「ハミル様、僕1人では心もとないので、ルディを連れて行ってもいいですか?」
ルディ
「えぇ!?」
ハミル
「かまわない」
ルディ
「かまえよ! アンジェリカってなんか聞いてる限りだと、ヤベーヤツっぽいじゃん! ヤダよ!」
ルース
「だからですよ。今日の悪戯の罪は、パーティーに同行することで許してあげるんです」
ルディ
「罪が重くね!?」
ルース
「すべこべ言わず、森林の階に行く準備をしておいてくださいよ。階層を跨ぐのですから、日帰り旅行くらいの気持ちでいてください」
ルディ
「うう…どうしてこんなことに…!」
こうして、アタシとルースは森林の階にあるアンジェリカの別荘のパーティーに出席することになった。
+++++
11月4日の午前9時。
アンジェリカ主催のパーティー当日。森林の階に着いたアタシとルースは、1時間に1本しか出ていないバスに揺られていた。
パーティーの時間は11時だ。
アタシは隣に座るルースに聞いた。
ルディ
「なぁルース。なんでパーティーの2時間前のバスに乗るんだ?目的地まで1時間で着くんだろ?」
ルース
「貴女はバスに乗ったことがないのですか? バスは渋滞に巻き込まれがちなのですよ。森林の階という田舎で、1時間に1本しかバスが出てないようなところでは、早めの行動をしておくに越したことはありません」
ルディ
「早く着いたらどうすんだよ」
ルース
「適当に時間を潰しましょう」
ルディ
「えー、暇潰しとかダル〜」
ルース
「遅刻するよりマシです。約束の時間より早く到着して、周辺で時間を潰す。社会人の常識です」
ルディ
「ふーーん」
アタシはバスの窓から外を眺める。
大きな山と、古臭い店の看板。
バスが進むにつれて、時代がどんどん退行していくようだった。
+++++
目的地付近のバス停に着いた。
アタシとルースはバスを降りる。
ひんやりとした山の空気を感じた。
時刻は9時半。
アタシはルースをジトリと見つめる。
ルディ
「早すぎないか?」
ルース
「早すぎましたね」
ルディ
「どうすんだよ! さすがに1時間以上も前にパーティー会場に行くのは非常識だって、アタシでも分かるぞ!」
ルース
「喚かないでください。とりあえず、パーティー会場に向かいましょう。ここからは徒歩ですから、もしかしたら時間がかかるかもしれません」
そう言って、ルースは歩くのだった。アタシも後を追う。
パーティー会場である洋館には、15分で着いてしまった。
ルディ
「………」
ルース
「…困りましたね。あと1時間ほど、どこで暇を潰しましょう?」
ルディ
「どこで、って…」
辺りを見回しても、道路と木しかない。
陸地の階みたいな都会と違って、暇を潰せそうな場所がない。
これにはルースも唸る。
ルース
「田舎を舐めていました」
ルディ
「とりあえず…ここから移動するか? 門の前でウロウロするわけにもいかねーし」
ルース
「そうしましょうか」
その時だ。
はしゃいだ子供の声がした。
???
「あー! そこにいるのは、ルース!?」
声の方を振り返れば、赤髪の男の子が駆けてくる。その背後には白髪の男の子がいた。
ルースが驚いて言った。
ルース
「ネストリさん! それに、ラルス様も!」
ネストリと呼ばれた男の子は無邪気に笑う。
ネストリ
「あはは! 久しぶり!」
ラルスと呼ばれた男の子は、クールな表情で微笑む。
ラルス
「久しぶりだな、ルース。ハミルはどうした?」
ラルスの声色は大人びすぎていた。
ルースは答える。
ルース
「ハミル様の代わりに、僕が出席することになりました」
ラルスは鼻で笑った。
ラルス
「賢明な判断だな」
ネストリ
「ねーねー! そこの赤い小悪魔ちゃんは誰??」
ルース
「あぁ、紹介します。彼女はルディ。僕と一緒にパーティーに出席させるために連れてきました」
ルディ
「あー、よろしく」
アタシは一応2人に笑いかける。
ラルスは冷たい表情を変えない。
ラルス
「よろしく。僕は、夢幻の神のラルスだ」
ルディ
「夢幻の神!?」
思わずアタシは叫ぶ。
ルディ
「アルシデの住人に夢を運ぶっていう、あの夢幻の神かよ!?」
ラルス
「そうだ」
ルディ
「へ〜、こんなちっこいガキなんだな!」
ルース
「失礼ですよ、ルディ」
苦笑するラルスの横で、ネストリが飛び跳ねる。
ネストリ
「僕はね〜! 夢幻の神が使う杖! ネストリだよ! よろしくね!」
ルディ
「杖って…?」
ルース
「貴女…僕たちの屋敷で悪戯ばかりやっているのに、杖のことも分からないのですか?」
ルディ
「ルース! 解説してくれ!」
ルース
「はあ…神の名を持つ魔法使いは、特殊な杖を使ってアルシデに魔法をかけるのです。人型の生きた杖。それがネストリさんですよ」
ルディ
「じゃあ人間じゃないんだ?」
ネストリ
「えへへ、そうだよ! 僕は人間じゃないよ!」
ネストリは1人で楽しそうだ。
ルースはラルスに聞いた。
ルース
「そういえば、2人もパーティー会場に早く着いたのですか?」
ラルス
「あぁ。2時間前に着いてしまった」
ネストリ
「僕とラルスでずーっと暇潰ししてたんだよ! 落ち葉ちぎったり、洋館の周りをぐるぐる歩いたりしてたんだ!」
ルディ
「不審者じゃん」
ルース
「人聞が悪いですよ、ルディ」
ネストリ
「そうだよ! 僕たちはパーティーに招待されてるんだから! 不審者じゃない!」
ラルス
「そう言う問題じゃないが…まぁ、2時間も前に到着するのは、非常識と思われても仕方ないな」
ルディ
「アタシらより早いもんな」
ラルス
「交通状況の読めない土地だから、と思ったが…早めに行動すればいいというものでもないな」
ラルスは自嘲した。
ネストリは口を尖らせる。
ネストリ
「ねぇ〜、もう1時間前でしょ? そろそろ会場に入ってもいいんじゃない? 早めに来ちゃったって言ってさ!」
ラルス
「ダメだ。こちらの非常識を晒す真似などするべきじゃない」
ネストリ
「アンジェリカだって、非常識な人じゃん」
ルース
「しっ、そんなこと言ってはいけません」
ラルス
「向こうが非常識であるからこそ、こちらは常識的であるべきだ。バカと同じレベルになってはいけない」
ルース
「ごもっともですね」
言った直後だった。
赤い閃光が目の前に炸裂した。
ルディ
「うわあ!?」
眩しい。
目が眩む。
熱い。
その赤い閃光から、熱を感じた。
まるで、炎のよう…
???
「失敬。アンジェリカ様の悪口が聞こえた気がして、思わず飛び出してしまいましたが…貴方がたでしたか」
凛々しい女性? 男性?
性別の分からない人物の声がした。
だんだんと眩んでいた目が元に戻っていく。
アタシたちの目の前には、眩い炎の剣を持った人間が立っていた。
ルースが呆れて言う。
ルース
「アレクシア…さすが、主人のこととなると地獄耳ですね」
アレクシア
「褒め言葉と受け取っておこう」
アレクシアと呼ばれた人物は、炎の剣をしまう。
アタシは思わず言った。
ルディ
「アレクシアって…アンジェリカの右腕で恋人の、アレクシア!?」
アレクシア
「えぇ、いかにも」
アレクシアは鋭い目をアタシに向ける。
アレクシア
「ラルス様とネストリ、ルースがいるのは分かりますが…なぜ小悪魔がここに?」
ルース
「彼女、ルディは僕の連れです」
アレクシア
「そうですか。ルース、ハミル様はどちらに?」
ルース
「ハミル様の代わりに、僕が来ました」
アレクシアの眉がピクリと動いた。
アレクシア
「ほう。太陽の神のパーティーに雨の神は出席しないと?」
ルース
「貴方の主人のパーティーには、ろくなことが起きないという前科があるので」
ピリついた空気。
だがアレクシアがフッと笑う。
アレクシア
「まぁ、代わりの者を遣わせただけでも、アンジェリカ様はお喜びになるでしょう」
アレクシアはアタシたちに深々と頭を下げる。
アレクシア
「お時間は早いですが…ようこそ、太陽の神の別荘・森の洋館へ。中へお入りください。アンジェリカ様がお待ちです」
アタシたちは、アレクシアの後ろについていきながら、洋館へと入った。
+++++
洋館の中は、レトロでオシャレで、上品な内装だった。
深い焦茶のフローリング。
アンティークな家具。
照明も優しいオレンジ色。
芋臭い雨の屋敷とは大違いだ。
大広間に連れてこられたアタシたちを待っていたのは、長い白髪をたゆたわせた女性だった。その人物がアンジェリカだと直感で分かった。
アンジェリカはにっこりと微笑む。
アンジェリカ
「あらぁ、皆さま。お久しぶりね。会えて嬉しいわ」
ルース
「お久しぶりです、アンジェリカ様。1時間も早く到着してしまい、申し訳ありません」
ラルス
「僕も、早く来すぎた」
アンジェリカ
「うふふ、お気になさらず…って、あら? どうして小悪魔がここに?」
ルースはもう何度目かの、アタシの説明をする。
アンジェリカはニコニコと聞いていた。
アンジェリカ
「うふふ。そういうことね。問題ないわ。パーティーは賑やかな方が楽しいもの。ハミルが来ないのは残念だけど」
ネストリ
「ねーねー! 他には誰が来るの!? まさか僕たちだけ?」
ネストリの言葉に、アンジェリカはシュンと落ち込む。
アンジェリカ
「実はそうなの。もう1人、風の神のキールにも招待状を出したんだけど、用事があって出席できないって連絡があってね」
アンジェリカは溜息をついた。
ラルスが言う。
ラルス
「しかし、今日は何のパーティーなんだ? 招待状には特に何も書いてなかったが、何か特別な日なのか?」
アンジェリカは意味ありげに微笑む。
アンジェリカ
「うふふ。今日は、何でもない日をお祝いするパーティーよ」
ルース、ラルス、ネストリ、ルディ
「「「「は???」」」」
4人分の声が上がる。
気にせずアンジェリカはニコニコと言った。
アンジェリカ
「どこかの童話にもあるじゃない。何でもない日をお祝いするお茶会でしたっけ? 一回そういうのやってみたかったのよ〜」
アレクシア
「さすがです、アンジェリカ様」
ルース
「いやいやいや、そんな下らないことに付き合っているほど、こちらも暇じゃないんですよ?」
ラルス
「ルースの言う通りだが…しかし、アンジェリカが開くパーティーで、『何でもない』ということが分かってホッとするべきだろう」
ルース
「はあ…これだから非常識な人間は…」
ネストリ
「何でもない日にパーティーって、楽しそー!!」
アンジェリカ
「えぇ、楽しいわよ」
アンジェリカは言う。
アンジェリカ
「それじゃあ、皆さんはここでくつろいでて。昼食には早いけど、私はお料理を作って持ってくるわ」
アレクシア
「アンジェリカ様。私も手伝います」
アンジェリカ
「アレクシアは、ここで待ってて。今日は私がみんなをおもてなししたいの。貴女のことも」
アレクシア
「!」
アレクシアは驚いて目を見開く。
アンジェリカは微笑んで全員に言った。
アンジェリカ
「皆さんに、私の手料理をご馳走するわ。ちょっと待っててくださいね」
そう言って、アンジェリカは大広間から出て行った。
アレクシアは凛々しい顔からは想像できないほどに、口元がニヤけていた。
アレクシア
「アンジェリカ様の手料理…! ふふふ…! 最高か…!!」
こんなことは言いたくないが、カッコいいアレクシアのデレデレした姿は見たくなかった。
ルースとラルスに視線を移すと、2人も同意見のようで、小さくうなづいた。
ネストリ
「わーい! 美味しいご飯が食べられるんだね!」
アレクシア
「えぇ、美味しい美味しいご飯が食べられますよ」
ネストリ
「楽しみ〜! あと、アレクシアのニヤニヤした顔キモーい! おもしろーい!」
アレクシア
「はっはっは! アンジェリカ様の手料理が食べられると思うと顔が綻んでしまうのですよ!」
ネストリ
「あはははは! おもしろーい!」
アレクシア
「はっはっはっはっは!」
ネストリだけが、無邪気にアレクシアと笑い合っていた。
+++++
待っている間。
ルース
「ちょっと席を外します」
ルディ
「ルース、どこ行くんだよ?」
ルース
「…お手洗いですよ。言わせないでください」
ルースは手洗いに行った。
その後でネストリも手洗いに行った。
ネストリ
「1人でトイレに行けないから。ラルスも来て!」
ラルス
「いいかげん、トイレくらい1人で行けるようになってくれ…」
と言いつつ、ラルスも一緒に同行した。
アタシはアレクシアと当たり障りない世間話をしたけど、内容が無さすぎてすぐに忘れた。
大広間で待っている間に、窓の外が暗くなってきた。
白っぽいモヤがかかる。
アレクシア
「霧が出てきましたね。これではしばらく、外には出られない…」
ルディ
「そんなに濃い霧なのか?」
アレクシア
「えぇ。外を歩くのが危険なほどに」
ルースが時計を見ながら言う。
ルース
「アンジェリカ様、まだ料理を作っているのでしょうか」
ラルス
「こちらも早く来てしまったからな。待たされても文句は言えない」
ネストリ
「ごっはん! ごっはん! たっのしっみだ〜!」
しかし…
それからしばらくの時間が経ったが、アンジェリカは大広間に戻ってこなかった。
ルース
「いくらなんでも遅過ぎでは?」
アレクシア
「確かに…」
ネストリ
「きっとお魚料理を作るために、お魚を釣ってる最中なんだよ!」
ラルス
「釣るところからは料理とは言わない」
ルディ
「ちょっと呼びにいく?」
アレクシアがうなづいた。
アレクシア
「私が様子を見に行ってきます。皆様はここで待っていてください」
アレクシアは大広間から出て行った。
ルース
「ラルス様…何か嫌な予感がするのは、僕だけでしょうか?」
ラルス
「…その勘は案外当たっているかもしれないぞ」
ネストリ
「アンジェリカはどうしたんだろ! かくれんぼでもしたくなったのかな!」
ルディ
「それはないだろ」
その時だ。
アレクシア
「うわあああああああ!!!」
アレクシアの悲鳴が響き渡った。
ルース
「なっ、何ですか!?」
ラルス
「行くぞ!」
ルースとラルスは悲鳴の聞こえた方へと走って行った。
ネストリ
「あ! 待ってよー!」
ネストリも後を追いかける。
ルディ
「えええ!? アタシ1人で大広間にいるなんて嫌だからな!?」
アタシも後を追いかけた。
+++++
厨房。
開け放たれた扉の前で、アレクシアが震えて立ちすくんでいた。
アレクシア
「アンジェリカ様…!! どうして…!!」
アタシたちは、アレクシアの目線の先を見た。
そこには…
血を吐いて床に倒れるアンジェリカがいた。
ルディ
「なっ!?」
アタシは言葉を失う。
ルース
「嘘でしょう…!!」
ルースは驚愕する。
ラルス
「なんてことだ…!!」
ラルスは苦々しい顔をした。
ネストリ
「あれ!? アンジェリカ、どうしたの!? 昼寝!?」
ネストリだけが頓珍漢なことをほざく。
ルースは必死で冷静を装いながらアレクシアに言った。
ルース
「アレクシア。アンジェリカ様の死亡は確認しましたか?」
アレクシア
「まだだ…」
ルース
「では僕が確認します」
ルースはゆっくりと横たわるアンジェリカに近寄り、手首で脈を確認する。口元に手も当て、呼吸を確認する。
生きててほしい。
冗談であってほしい。
ルース
「……死んでる」
誰も言葉を発しなかった。
ショックでそれどころではなかった。
だがハッとしたように、アレクシアが言う。
アレクシア
「警察に連絡を…!!」
アレクシアは固定電話のある場所まで駆けていった。
ラルス
「クソッ…一体何が起きている…!?」
ネストリ
「アンジェリカ…死んじゃったんだ…」
ルース
「ですが、目立った外傷がありません。口から血を吐いている以外…」
ルディ
「え?じゃあなにが原因で、アンジェリカは死んだんだ?」
ルース
「そんなの…」
ルースが言いかけた時、アレクシアが厨房に戻ってきた。顔が絶望的だ。
ルース
「アレクシア。警察は呼びましたか?」
アレクシア
「………」
アレクシアは重い口を開いた。
アレクシア
「電話線が、切られていました」
ラルス
「なんだと!?」
アレクシア
「外は濃霧。洋館から出て警察へ行くのは危険です…」
ネストリ
「じゃあ僕たち、このままここにいるってことなの?」
ルース
「そういうことですね…ですが、ある意味では好都合かもしれません」
ルディ
「どういうことだよ?」
ラルス
「分からないのか。この洋館から出られないのは、犯人も同じということだ」
ルディ
「犯人って…」
そこまで言ってハッとする。
ルース。
ラルス。
ネストリ。
アレクシア。
屋敷にいるのはこの4人だけ。
ルディ
「まさか、犯人は…」
ルース
「えぇ。考えたくありませんが…」
全員が理解していた。
同時に、理解したくない。
犯人は…
ルディ
「この中に、いる…!?」
+++++
アンジェリカの死体を前に。
ルースは言った。
ルース
「もう一度、アンジェリカ様が大広間を出てから、発見されるまでの状況を整理しましょう」
言った直後。
アレクシアが炎の剣を出現させ、ルースに突きつけた。
ルース
「なっ!?」
アレクシア
「お前が殺したのか、ルース!! お前はアンジェリカ様が大広間を出た後、手洗いに行っただろう!? その時にアンジェリカ様を…!!」
ルース
「ちょっと待ってください! 違いますよ!!」
アレクシア
「それとも、お前らか!? ラルス、ネストリ!!」
怒り狂うアレクシアは、ラルスとネストリに炎の剣を向けた。
アレクシア
「お前たちも、手洗いに行っただろう!? その時にアンジェリカ様を…!!」
ネストリ
「ち、違うよぉ!!」
ネストリは慌てるが、ラルスは冷静だ。
ラルスは鋭くアレクシアを咎める。
ラルス
「アレクシア、落ち着け」
アレクシア
「落ち着いていられるか!! 我が主が…恋人が殺されたんだぞ!! この中の誰かに…!!」
取り乱すアレクシアから敬語は消えていた。
アレクシアはアタシには炎の剣を向けなかった。唯一アレクシアと大広間にずっと一緒にいたのが、アタシだったからだろう。
ラルスは冷たく言う。
ラルス
「犯人は僕でも、ネストリでも、ルースや、ルディでもないかもしれない」
アレクシア
「どういうことだ? まさかこの屋敷に私たち以外の誰かがいると?」
ラルス
「その可能性もあるが…」
ラルスはアレクシアに言う。
ラルス
「アレクシアが犯人だと言う可能性もあるからな」
アレクシア
「なんだと!?」
ラルス
「第一発見者が犯人であることはよくある話だ」
アレクシア
「私がアンジェリカ様を殺す理由がどこにあると言うんだ!!」
ラルス
「さあな。犯行理由など、本人にしか分からないだろう?」
歯軋りするアレクシアは、今にも炎の剣でラルスに斬りかかりそうな勢いだった。
アタシは慌てて言う。
ルディ
「と、とにかくさ! 今ここで争っても仕方ないだろ!」
アレクシアはアタシに鋭い目を向ける。
アレクシア
「……それもそうですが、ではどうしろと? 私は今すぐにでも、犯人を八つ裂きにしたい気分なのですが」
ルースが言った。
ルース
「僕も犯人は気になります。そこで提案なのですが、それぞれ分かれて、犯人の手掛かりを探すというのはどうですか?」
ラルス
「犯人探しか。いいだろう。濡れ衣を着せられるのはたまったものじゃない」
ネストリ
「探偵ごっこだね!」
アレクシア
「ごっごなどではない。必ず犯人を見つけ出して、八つ裂きにしてやる…!!」
ルース
「それでは、僕は厨房に手がかりがないか探します」
ラルス
「なら、僕とネストリは1階を探そう」
ネストリ
「え? 僕、ラルスと一緒に行動するの?」
ラルス
「ネストリの単独行動は危険だ」
ネストリ
「危険かなぁ??」
アレクシア
「では、私は2階を探します」
ルースはアタシを見る。
ルース
「ルディはどこを探しますか?」
ルディ
「えっと…どうしよう、1人で手がかりを見つけられる気がしないし…」
アタシは…